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青山繁晴氏
みなさん、改めまして、こんばんは。
実は、会場の中で紹介したい人がいらっしゃって、有名な作曲家であると同時に、こういう活動に身を粉にしておられる、すぎやまこういち先生と奥様です。
(会場拍手。すぎやまご夫妻の胸にはブルーリボン)
そういう意味からも、こっちにいるのが面はゆい気が僕はするんですが、さっきの永山さんの例にならいまして、日本国民の一人として、今回の騒乱だけではなくて、1949年の中華人民共和国建国以来のウイグルとチベットの犠牲になられた方々に、改めて哀悼の意を表したいと思います。
今夜の緊急シンポジウム、隣の盟友西村さんから連絡いただきました。今日このタイトルにありますように、ウイグルで今、何が起きているか、というのがメインテーマですね。
ウイグル人であるイリハムさんの前で、ウルムチ、カシュガルその他のウイグルで何が起きているか、を僕が説明するというのは大変僭越な気がするんですが、ただ、今夜もっと事実を知りたいという気持ちをもたれた方はおそらく多いと思います。
僕はかつて共同通信という報道機関に20年おりました。共同通信はもっとも中国に遠慮するメディアの一つですね。それだから辞めたわけじゃありませんよ。
しかし、かつての取材源はまだまだ中国国内にいますから、そういうことも踏まえて、僕なりに知り得たことを、僕なりの整理をさせていただきたいと思います。
まず、今回ウルムチで事件があり、さっき中山さんからもお話がありましたが、当初は日本のテレビでもかなり報道されましたね。
そのときにイリハムさんが、かなりたくさんのテレビにコメントその他でお出になって、しかも電話を生放送でつないで、だから編集できない状態で、イリハムさんから本当の話が出たケースも多々ありました。残念ながら最初だけでしたけどね。
その時に僕がまず思ったのは、僕の役割というのは、実はあえて一般的なところから取材するというのが大事だと思いました。というのは、事件の最初から中国は世界ウイグル会議の煽動なんだということを言ってましたね。
世界のどこかにいる亡命ウイグル人の中には、日本以外にももちろんたくさんいらっしゃるんですよ。ニューヨークにもいますし、パリにもいますし。そういう人々の中には、世界ウイグル会議に入らない人もいるんです。そういう方と連絡をとって、そういう方が今ウイグルの状況をどのように情報収集しているか。親族や奥様がウイグルに取り残されている方がたくさんいらっしゃいます。そういう方々に連絡を取り、情報を集めました。
この中には、僕が大阪で関西テレビというテレビ局の報道番組に出ていることをご存知の方がいらっしゃるかもしれません。生放送で、やり直しのきかない放送なんですが、その放送のためにも情報を集めました。毎週水曜日に放送するんですが、前日の火曜日の夜に打ち合わせ、打ち合わせっていうか怒鳴り合いの討論会、かつて硫黄島をやろうとして反対が強かったりいろいろあったんですが、そういう場でこの証言の話をしましたら、じゃあ、今この場で、その亡命ウイグル人の方にもう一度電話をして、そのシーンをそのまま明日流しましょうか、というふうに言ってくれたんです。これは大変勇気あることだと思います。
というのは、その番組で中国や北朝鮮その他について、何を言っても後からどんどんインターネットに、「あれは捏造だ」「嘘なんだ」「そんな情報なんかないんだ」「そんな情報など存在しない」ということをてんこ盛りで書き込まれるんですね。
それがわかっていることもあって、その場でディレクターが、じゃあ今からカメラを用意するんで、電話してくれますか、と言ってくれたんです。
これもルール破りの話をしますが、そのディレクターって、そこにいるオレンジのシャツを着た…
(会場拍手)
今日、大阪から駆けつけてきてくれたんですね。
それで、その人の証言を中心に今からお話しします。ですからイリハムさんから見たら、ちょっと事実が違うところがあるかもしれません。それはちょっとご容赦いただきたい。
ただし、一人の証言だけじゃなくて、複数のウイグル人にその前後聞いております。
さらに、日本国外務省の中に、特にノンキャリの中に、中央アジアを専門としていた人の中に、ウイグルやチベットに深く同情している外交官が実はいます。
それから、日本のいわゆる公安当局、ちょっとはっきり言えば、日本は最近警察庁に外事情報部というものをつくり、ずいぶんと昔のイメージと違って、中国や北朝鮮の情報を集めるようになりました。そういう中にも、自分の出世のためじゃなくて、少数民族のために仕事をしている人もいます。
私が亡命ウイグル人から聞いた証言を、そういう日本の政府関係者にもあてて、これはある程度客観性がある事実だろう、と確認できたところだけをテレビでも放送しましたし、みなさんにお話したいと思います。
前置きが長くなりましたが、こういう証言を総合すると、まず、今回の騒乱の発端はウイグルで起きたんじゃない。ご承知の方も多いと思います。
発端は6月26日の夜中で、それはウイグルどころか広東省の韶関(しょうかん)という町、あとで地図で見ていただきたいんですが、中国の沿岸部に近い都市ですね。
そこにオモチャ工場があって、オモチャ工場は当然輸出を中心とした、すなわち日本やアメリカにオモチャを作って輸出するのが中心の工場ですが、そこには8000人の労働者がいる。8000人ですから大規模な工場です。そこにウイグル人の労働者は600人いる。日本のメディアは、ウイグル人の労働者は出稼ぎに行っていると表現していますが、出稼ぎに行ってる者などいない、と。これはイリハムさんのお話にもさっきありましたが、そのオモチャ工場の600人も、中国によって強制的にこの韶関市のオモチャ工場に連れていかれた、と。
女性は少なくてそのうち1割、60人ぐらいである。
これは強制なのかということを僕は確認しました。これは大事なところですから。
そうしますと、イリハムさんの前で僭越なんですが、僕なりに確認したところでは、この強制手段というのは、たとえば手錠をかけて連れて行くような手段ではなくて、もっとしたたか、巧妙であって、若い人を特に指名すると。この中に今日若い人いらっしゃいますけどね。若い人を指名して、おまえとおまえとおまえは中国のあそこに行け、と。行かないんであれば、君の家族と親族に行政罰を加える。行政罰というのは刑事罰じゃない。監獄には入れないけれども、行政罰というのはつまり罰金のことですね。
これが平均的なウイグル自治区、この言い方は嫌なんですが、そのウイグル自治区の年収で言えば、年収の4,5倍になるような罰金をかける、と。したがって若い人としては、自分の家族のためにいかざるをえないということで、手錠はかかってないけれども、実質的には強制的に行かされる、と。
このオモチャ工場については、行かされた600人を3つに分けて、200人ずつ、3グループが交代で深夜勤務をしているのが実態であった、と。
6月26日の夜も、このうちの200人が深夜労働を終え、夜の11時半頃に工場の敷地内の寮に戻ろうとした。この工場の敷地内の寮というのも大変なポイントであって、すなわち自由に市内に住むことができるんじゃなくて、工場の敷地内の指定された寮といいますか、本当は収容所というべきかもしれませんが、そこに帰る。
するとそこに、200人のウイグル人に、総合計でいえば、推定3000人ぐらいの漢人が襲いかかってきた。僕はこれ何度も聞き直したんですね。3000人ってあまりに数が多くないかと思ったんですが、どの証言を突き合わせてみても、だいたい3000人前後いた、と。
それが手に手に、これもご承知の方多いと思いますが、斧とか中華包丁、中華料理に使うところの巨大な包丁、それから棍棒とか鉄パイプはもちろんのこと、そういう武器をもって、いきなり襲いかかってきた。その襲いかかってきた漢人も、いわばまさしく煽動されて襲いかかってきたのであって、ウイグル人の男性従業員が同じオモチャ工場で働いている漢人の女性を強姦した、という話がその前にインターネットの動画で流され、それが携帯にも出てきたということで、それに刺激を受けた漢人が集まってきて3000人に達したということだ、と。
その暴行の中で、ちょっとこれは言うのを、もちろんテレビで言うことはできなかったんですが、証言によれば、 2人のウイグル人の女性は、強姦された後、ウイグル人の女性は髪の長い方が多いので、その髪を使って、切り落とされた首を、木に吊された例もあった、と。2人いた、と。
これは、日本の公安当局では未確認です。違うところで起きた事件じゃないかという話も一部あります。いずれにせよ、そういう話まで出ているような悲惨な状況だ、と。
その状況が携帯電話で、ウルムチをはじめ、いわゆる自治区のウイグル人にも伝わっていった。
この情報、もう一度言いますが、僕は信憑性が高いと思っているのは、たとえば、襲われた200人のうちほとんどが逃げることはできなかったけれども、足の速い人が10人前後だけその場から逃げることができた、と。逃げられたけれども、そのうちの一人、男性なんですが、額を割られて7針縫ったという人が脱出して、内陸部に逃げてきているんですが、その人と直接連絡をとったウイグル人の証言からしても、その通り、200人がおよそ3000人に襲われたということですね。その中に、強姦、さらには命を奪われたウイグル人の女性もいらっしゃった、ということです。
その情報が自治区に伝わったために、まず学生のデモが起きた。これはイリハムさんのお話にもあったとおり、五星紅旗、中国の国旗をあえて掲げていった、と。五星紅旗というのはみなさんご存知の通り、日本でも去年チベットでの3月の民衆蜂起の後に、聖火リレーが日本の長野にやってきた。長野を埋め尽くしましたね、この五星紅旗。
この五星紅旗、真ん中に大きな星があって、まわり4つの小さな星がそれに従うという構図になっています。これは中国共産党の指導だという話になっています。実際には漢人の下に少数民族を従えるという意味もある、というのが世界の常識ですね。
でもあえてその五星紅旗を学生デモは掲げたにもかかわらず、つまりこれは撃つなという意味だったと思われます。イリハムさんがおっしゃった通り。
その学生デモが五星紅旗を掲げていることもあって、普通のウイグル人が参加しやすくなったので、まわりの商店その他から多くの人が参加していって、かなり大きなデモになった。それがウルムチの中心部の人民広場に近づいていった、と。人民広場に入ろうとした。人民広場の中には、いわゆる自治区政府の機関があります。そこで中国の警察の動きが変わった、と。
この中国の警察部隊というのは、この亡命ウイグル人たちの集めた証言によれば、3つの種類があって、人民武警、特警、特警というのは人民武警の中の対テロ特殊部隊ですね。だから非常に火力が大きい。それにさらに人民解放軍のテロ対策部隊まで一部いた、と。この3つの種類の警察部隊が、いきなり水平射撃をした、と。
一応僕は安全保障が専門ですが、普通、威嚇射撃は必ず空に向けて行いますが、これが行われずにいきなり水平射撃を浴びせたので、まったく非武装の学生や市民の中に、想像を絶する犠牲者が出た、と。
何人かははっきりわからない。どうしてかというと、あっという間に、その中国の警察のトラックが、生きている人も亡くなっている人もトラックに詰め込んで、運び去ってしまって、いまだにどこにいったのかわかりません。
少なくとも病院に収容された形跡は全然ない。
だから、死傷者がいったいいくらなのかわからないけれども、それであっという間に鎮圧されてしまった。
ところが、鎮圧されてしまったはずのウイグル人が、なぜかその後元気に町の中を走り回って、バスを襲ったり、車をひっくり返したり、火はつけるし、が展開されて、 それが日本を含めた西側のテレビでたくさん報道され、ウイグル人の側もこのように暴行を働いているじゃないか、という報道がされた。
ところが、亡命ウイグル人たちの証言を、もう一回言いますが、世界ウイグル会議に参加していない人たちの証言によれば、そんなことはできる状態ではない。
それは、中国はいつもこういうときに、チベットであれウイグルであれ、実は内モンゴルでも同じことであって、必ず、ウイグル人やチベット人やモンゴル人に見えるような、あるいは場合によっては、そういう民族の人に非常に特権を与えて、普段から養っていて、そういうときに、車をひっくり返して火を付けて、それを新華社のムービーだけじゃなくて、西側のテレビその他にも映させるということを常識的に訓練としてやっている。それが実行された。それがそのまま無批判に日本の報道で流れている、と、これが、今ウイグルで何が起きているか、じゃなくて、6月末から7月の始めにかけて起きた真実であろう、と僕は思っています。
今現在何が起きているかというのは、本当に伝わらない状況になっているのが現実のところであります。
僕の持ち時間はもうなくなっている。とっくになくなっているということなんで、あと1、2分で話をまとめますが、もう一つ大事な、私たちの見た現実というのは、このウイグルの事件のあと、中国の胡錦涛国家主席が、みなさんご承知の通り、ラクイラサミットから突然中国に帰ったということですね。
これについてはいろんな解釈があります。たとえば、ここにいらっしゃる石平さんが、産経新聞に出されておられた、中国共産党の内部で実際に意見対立があるんじゃないか、という見方も存在しています。そういう見方と同時に、僕は今日はみなさんにお話したいのは、僕なりに中国人民解放軍の将軍、中国共産党の幹部、あるいは共産党のブレーン機関である社会科学院の人たちと議論して、議論というのは北京や上海で議論して、僕の印象にいろいろ残っているのは、「中国は1989年のベルリンの壁崩壊以降の、世界の状況を徹底的に勉強してきたんです」ということを何人もの方からそう言われてきました。
89年には天安門事件もありましたが、天安門事件そのものよりもむしろ、東ヨーロッパで何が起きたか、ということを彼らは徹底的に学習している。
東ヨーロッパで起きたことは、簡単に言えばですよ、社会主義というものがこのペットボトルの外枠だとします。水の中に少数民族を無理矢理閉じこめていた。それが冷戦に社会主義が負けて、ペットボトルがなくなったために、この中の少数民族がどっと外にあふれ出した、というのが、東ヨーロッパ だったわけですね。
旧ユーゴスラビアで無惨な戦争がありまして、僕はその戦争の最中に旧ユーゴに行ったときに、サラエボにサッカー場がありました。有名なサッカー場です。そのサッカー場のグラウンドの上に、見渡す限り遺体が置かれていて、遺体の上に、これは戦地にいきますとね、グラウンドやサッカー場が墓場になるということはよくあることなんです。人がいっぱい死ぬと墓が足りない。
ところが、僕はそのサラエボで、いままで自分が見たものとのは違うもの、びっくりしたのは、その遺体の上に、薄くしか土がかけられてなくて、だから割れた頭とか、骨がむき出しになっている足や手がよく見えるわけです。
そんな状況は見たことはない。見たことがないから、その後、サラエボの当時の政府の人に、「これはどういうことですか」と聞きましたら、今まで社会主義の力で、少数民族の対立、隣同士で宗教が違う、民族も違うのを無理矢理抑え込んでいたのが、一気にたがが外れたから、隣同士で殺し合うようになった。これが今のサラエボの現実で、お葬式をやろうとすると、そのお葬式のところに必ずロケット弾を打ち込んでくるから、遺体をおいたら土をかけてすぐ逃げなきゃいけないんだ、と。これが現実だと言われて、僕はそのときに、ああアジアでこんなことが起きなくてよかった、と正直思ったんです。ところが、それは僕がまったく浅はかであったわけです。
ヨーロッパの現実というのは、本当に無惨でありました。僕が目にしたものは、あえていうと、その後みたイラク戦争の地獄よりもひどかったです。ひどかったけれど、ヨーロッパ人は、あえて申せば、そうやって自ら血を流して、新しい秩序をつくって、少数民族はそれぞれ独立していって、自分の国を確保して、だから、EUもできあがったし、統一通貨のユーロもできて、やっと新しい道を歩こうとしているわけです。
アジアは20年間それをさぼってきたんです。私たち日本国民も何もせずにきた。ずっと中国のあるいは北朝鮮の内部に、いろんな矛盾を押し込んできたまま、これは隣の国のことだから、と言ってほったらかしにしてきた。
ヨーロッパとちがってアジアでは血が流れなくてよかった、と思ってきたんですが、実は中国自身がずーっとそれをいつかはアジアで起きると警戒してきた。だからこそ、チベット動乱にもするどく反応したし、今回のウイグルの件でも胡錦涛主席がすぐに帰ったというのは、これは20年経ってアジアでいよいよ少数民族の自立、独立が始まるんじゃないか、いままで20年間何も起きなかった分、ある意味東ヨーロッパよりも激しいおき方をするんじゃないかということを警戒して。
だから、自ら陣頭指揮をとるために、北京にあえて帰ったんだと思っています、私は。
というのは、胡錦涛国家主席は、サミットが始まる3日前の7月5日に、もうラクイラに入っていました。そのときに300人の中国の実業家たちを連れて行って、さあ世界の経済は中国だけが頼みなんだ、と。中国のおかげでこれから金融危機を克服するんだ、と。だから今回のサミットは、絶対に途中で帰っちゃいけないサミットだったんです。しかも7月8日は、インドを従えて、新興国全部を中国が束ねるというセレモニーをやる日だったのに、突然帰ったわけですから、どんなに中国にとって今回の事件が大きかったか。
そして、ウイグル人は中国国内でいうと900万人を割っているわけですから。漢人の実数は本当は12億人を超えているわけですから。本当は軍事的にいうと、八百数十万と12億では太刀打ちできるわけがない。
それがしかし、胡錦涛国家主席が帰らなきゃいけないというのは、今回のウイグルの件がどれほど大きいかということなんです。
ここに国旗が出ているように、ウイグルにおいては、東トルキスタン共和国は実は2回建国されているわけです。建国の事実があるということを踏まえると、これは人民解放軍をどのように全国に展開するかということが、どれほど吃緊の課題だったかということを物語っている。
ということは、いったん静まっているように見えますが、胡錦涛国家主席が体で示した通り、中国は、中華人民共和国という少数民族を無理に閉じこめているこの国というのは、建国以来の危機に直面している、というのが現実のところだと思うんです。
だから日本も含めて、日本国民と日本政府が、いわばこれをソフトランディングさせて、犠牲者をなるべく少なくしながら、世界のいままでの20年間の歩みと同じように、その20年間の歩みに学ぶなら、なるべく犠牲者を少なくするソフトランディングによって、少数民族の自立を図るということを僕たちは現実にこれからやる、その時代が始まったんだ、と思います。
つづく
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